〝漆紙HDD〟の出土


今から半世紀前、古代の国府が置かれていた多賀城跡(宮城県)から奇妙な革製品が出土しています。後に、それは漆で固まった紙とわかりました。  

 その紙を調べたところ、当時の住民の基本台帳である「計帳」などの公文書や暦でした。「計帳」とは名前、続柄、年齢のほかホクロや傷痕などの身体的特徴までも記された個人情報リストのことです。  

 これらは〝漆紙文書〟と呼ばれ、漆職人が漆の変質を防ぐため廃棄された和紙を漆表面にかぶせた「ふた紙」だったのです。その後、各地の遺跡で続々と出土した漆紙文書は古代からのタイムカプセルとして歴史研究を大きく前進させました。  

 たとえ行政文書であろうと、紙は貴重で再利用するのが当然だった時代の話です。  電子データ時代の〝漆紙文書〟ともいいますか、先日、神奈川県の納税記録など膨大な個人情報の残存するハードディスクがネットオークションで転売されていたことが判明しました。  

 何とデータ消去を請け負った会社の社員が持ち出し、ネットオークションに出品していたのです。  神奈川県は使用サーバーのレンタル業者への返却時にHDDを初期化していたといいますが、それでは〝復元〟が可能です。レンタル業者がデータ消去の専門業者に廃棄を委託した結果が、この有様だったのです。まさに、空前の行政データ流出でした。  

 このデータ消去業者は防衛省や最高裁、メガバンクなどとも取引があったといいます。こうした再利用に売り出された〝漆紙HDD〟が、各地で次々と出土することが心配されます。  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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