ウイルスの幻術に惑わされるな


 江戸時代後期、上田秋成が書いた怪異小説「雨月物語」のなかに「吉備津の釜」の篇があります。  内容は、こうです。夫に捨てられた妻が、恨みから悪霊になります。祟りを恐れた夫は、42日間の物忌みに入ります。物忌みとは一定期間、外出などを一切しないで、家に閉じこもることで悪霊を避ける古の方法です。  

 夜な夜な家の周りには悪霊の叫びが聞こえてきますが、夫は護摩符によって家には入れません。物忌みの最後の夜、外がしらじらと開けてきたとき、もういいだろうと思って外に出ます。その瞬間、悪霊に襲われます。夜は、まだ明けていなかったのです。  

 コロナ禍対策の緊急事態宣言から3週間が過ぎた今、新規感染者数を見る限り、一時の勢いもやや落ち着いたようにも見えます。  

 ただ、あくまで現時点での傾向であり、決して本物の夜明けではないでしょう。外出自粛という物忌みにより、やっとここまでの状況になりました。  

 ここで新型コロナウイルスの〝幻術〟に惑わされ、うかうか外出が増えてしまうと元も子もありません。ウイルスが、再び勢いを取り戻す危険があります。気の緩みは、今は禁物でしょう。 

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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