「夜と霧」に描かれた極限の悪
精神医学者のⅤ・Eフランクルは、ナチスの強制収容所での体験を自著「夜と霧」でつづっています。それを読むと、貨車に詰め込まれたユダヤ人が収容所に到着する冒頭のくだりから大きく魂を揺さぶられます。
旧版にあった巻末の写真もまた、ナチスによる〝極限の悪〟を告発していました。それは犠牲者が残した夥しい数の眼鏡や靴、義足、女性たちの大量の髪、うず高く山をなしている人間の灰などが映った写真でした。
第2次大戦の末期、連合国軍は点在する収容所に入り、こうした光景を直に目にしています。1945年1月27日、100万人以上が殺害されたアウシュビッツ強制収容所は解放されました。今年で、75年が経っています。
フランクルは45年4月、収容所を出ることができました。しかし、「夜と霧」を読むと「仲間たちは深いトラウマに苦しんでいた」とつづられています。
「あらゆるものは非現実的であり、不確実であり、単なる夢のように思われる」
きっと、自由の身になったのに心の傷が疼いていたのでしょう。
先日、ポーランド南部の収容所跡では追悼式典が開かれ、生存者約200人が列席しました。しかし、米英などの首脳級は参加していない。背景には大戦やホロコーストをめぐる各国の認識の違いがあるといいますが、人類の犯罪をこれまで以上に教訓とすべき時代に残念なことです。
今年は、国連創設から75年目に当たります。国連のグテレス事務総長は、年頭演説で世界の現状の危うさを〝4人の騎士〟を例に挙げて厳しく断じました。それは、世界の終末を描いている聖書の「黙示録」に登場する〝4つの災い〟の象徴だといいます。
グテレス事務総長が取り上げた現代の〝4人の騎士〟とは、以下の4つです。
〇テロや核の脅威を含む地域同士の対立
〇気候危機
〇格差などで生まれる不信
〇デジタル技術の悪用
誰もがこれら〝4つの災い〟が地球全体の脅威になるとわかっていながら、全人類が団結して対抗できていません。しかも、〝4つの災い〟は人類がみずから生んだ脅威です。もはや全人類を団結させるには、異星人の地球侵略しかないのかもしれません。
コロナ禍の今、人類は新たに新型コロナウイルスによる感染症という〝5人目の騎士〟との戦いを強いられています。
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