日本は「ゆずりは」の幹が枯れかけている


 昔、ある高僧のもとに、男性が年賀にやってきました。 

「何か縁起の良いことを書いてほしい」  

 高僧は、こう書き記しました。 

「親死に、子死に、孫死ぬ」  

 男性は、「正月から不吉だ」と怒りました。高僧は、こう答えています。 

「いや、この順番ならばめでたい。逆になったら大変なことだ」  

 おせち料理に添える「ゆずりは」は、新しい葉が成長すると古い葉がポトリと落ちて代を譲ります。これは、「親死に、子死に」の〝順縁〟です。  

 しかし、歴史を振り返って見ると、人は数えきれないくらい〝順縁〟に背いてきました。結果、多くの若者を戦争で死なせる過ちを重ねています。  

 今年は戦後75年目ですが、日本の近現代史のなかの戦争で多くの人が子や孫を失ってきました。そう思うと、戦後75年間も不戦を守ってきた「ゆずりは」の世のありがたさがわかります。  

 ただ、今の日本は〝形の違う戦争〟に直面しています。それは、少子高齢化という生殖をめぐる〝生殖戦争〟です。古い葉に取って代わる新しい葉そのものがあまり芽吹かず、木そのものも衰退している〝気配〟がますます強くなっているのです。 

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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