暴君ネロよりも質が悪い新型コロナウイルス

 歴史書を読むと、古代ギリシャで開かれていたオリンピックは紀元前8世紀から紀元4世紀までの1200年近くの間、4年ごとに都合293回も開催されていたことがわかります。  

 その間、聖なる休戦が破られてオリンピックの開催地で戦闘が起きたこともありましたが、一度として中止されたことはありません。  

 ただ、中止ではなく「延期」は一度だけありました。紀元65年に開催されるはずだった第211回の祭典が、2年後の67年に延期されているのです。  

 これを延期させた張本人は、ローマ帝国の暴君ネロでした。ネロは、みずからがオリンピックの馬車競走などに出場しています。しかも試合で落車したのに審判に〝優勝〟と判定させるなど〝自分ファースト〟のオリンピックに仕立て上げています。  

 主催するギリシャ人にとっては、まさに屈辱の歴史だったでしょう。  

 翻って、近代五輪の歴史はまだ1世紀余しかありません。しかも、戦争による中止を夏冬合わせて計5度も経験しています。しかし、今回の「延期」は史上初です。  

 今回、東京オリンピックを来年に延期させたのは暴君ネロよりも質の悪い新型コロナウイルスでした。  

 日本にとって、開催の1年延期は経済的・社会的な負担も大きいはずです。しかし、ここは新型ウイルスの脅威を軽視しないで感染症から人命を守る闘いが成すべきことの〝ファースト〟でしょう。  振り返ると、近代オリンピックはグローバル化する文明とともに歩んできたところがあります。その文明がもたらした感染症のパンデミックを世界的に制圧することなしには、どんな祝祭も似つかわしくないはずです。

  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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