トイレットペーパーの買い溜めは典型的な〝矛盾の自己実現〟

 1973年、日本は石油ショックに見舞われました。当時、大阪の千里ニュータウンのスーパーで、トイレットぺーパーが多くの顧客によって買い溜めされました。これが、全国的な〝買い溜め騒動〟の発端になっています。  

 このスーパーは、安売りで売り切れたトイレットペーパーの補充で倍の値段の高級品を店頭に並べました。それを見た顧客の多くが、紙の価格高騰が始まったと思ってしまったのです。  

 多くの顧客が列をなし、騒ぎは広がっていきました。兵庫では、混乱による高齢者の負傷も出ています。当時、政府が紙の節約を求めていたのが原因の一つとされていますが、トイレットペーパーの在庫は十分だったといいます。  

 今回、新型肺炎の感染拡大で起きた香港やシンガポールでのトイレットペーパー買い溜めの影響もあり、ソーシャルメディアでデマが広がって品薄になるという騒動になっています。  

 米国の社会学者ロバート・K・マートンは「矛盾の自己実現」を唱え、こう定義しています。 

「自己成就的予言(矛盾の自己実現)とは、最初の誤った状況の規定が新しい行動を呼び起こし、その行動が当初の誤った考えを真実なものとすることである」  

 わかりやすく言うと、ある事が起こりそうだと人々が思って行動することで、そう思わないと起こらないようなことが実現してしまう〝矛盾〟のことです。品薄予想がデマとわかっている人も、デマの自己実現に備えて品薄を加速する行列に加わってしまう〝矛盾〟した行動に出てしまうのです。   安倍首相の小中高一斉休校の要請は、米やカップ麺、レトルト食品など家での食事のための買い溜めという国民の〝矛盾の自己実現〟をもたらしました。しかし、どの商品も供給体制に不安はないといいます。  

 誰もが今、悪しき〝矛盾の自己実現〟に手を貸さない冷静さを過去の経験に学びたいものです。

  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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