ネット時代の〝孫氏の兵法〟
紀元前500年ごろ、中国は春秋時代と呼ばれていました。その時代を生きた軍事思想家の孫武の作とされる兵法書「孫子」の「謀攻編」には、こう書かれています。
「彼を知り、己を知れば百戦して殆うからず」
また、「孫子」の「用間編」では諜報活動の極意が示され、2人の人物が称賛されています。 「昔、殷が興って夏の滅んだときには伊摯が夏に潜入していた。周が殷に代わったときは呂牙(太公望)が殷に入り込んでいた」
太公望は、今では釣りをする人、釣りの好きな人といった使い方をされています。
伊摯と呂牙は、間者でした。間者とは、スパイのことです。
同じ文脈で「因間」は敵地の民間人の協力者、「内間」は敵国上層部に潜むスパイ、「反間」は二重スパイを使うことを指しています。また「死間」は偽情報を流して敵を惑わせる要員、「生間」は何度でも敵地に潜入して生還するスパイのことです。
近現代の情報戦をも先取りした孫子の〝用間術〟ですが、それが今、サイバー空間でも繰り広げられています。
先日、三菱電機が大規模なサイバー攻撃を受け、約8000件の個人情報などが外部に流出した恐れがあることが明らかになりました。同社は防衛関連機器や電力、鉄道など社会インフラの機密情報をあつかっていますが、その分野の重要情報の流出はなかったと説明しています。
同社はサイバーセキュリティーでも、国内トップレベルの企業です。その防壁をかいくぐった攻撃の規模や技能から、中国系ハッカー集団の関与が取りざたされています。周辺企業から標的企業に潜入し、機密を盗むのが彼らの手口といいます。
サイバー空間の〝間者〟は、マルウエア(不正ソフト)です。それを送り込む側と防ぐ側の知恵比べは、イタチごっこで際限がありません。正体不明の攻撃者は、まさに孫子の兵法にも熟達していると思っていたほうがいいでしょう。
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