声を出せない人

 台東区と荒川区にまたがる山谷地区で、ときどき炊き出しに参加しているボランティアの男性が明かしてくれました。昨秋、ボランティアの男性が路上で横たわる高齢の男性におにぎりを渡したときの話です。  

 その高齢の男性は、なぜか顔を上げて合掌しながらボランティアの男性に何度も謝ったといいます。 

「悪いね、ごめんね」  

 高齢の男性の片足は足首から下がなく、包帯がぐるぐると巻かれていたそうです。ボランティアの男性が「どうしたんですか」と聞いても、高齢の男性は聞かないでとばかりにこう繰り返したといいます。 

「ごめんね」  

 ボランティアの男性は、謝り続ける男性が不憫だったといいます。そして、こう明かしてくれました。 

「山谷では偏見を持たれることに慣れ、自分を卑下する人が少なくないのです」

  苦しくても、声を出せない人がいるということです。  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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