日本には世論がない

 さて、世論形成――。   

 幕末に、幕府が列強と結んだ条約は関税自主権がなく、治外法権も許すという不平等なものでした。明治政府が英国公使パークスに「世論が許さないので改めたい」と言うと、パークスはこう答えたといいます。 

「日本に世論があるのか。大勢の考えを集約する仕組みがないではないか」  

 そこで、明治政府が音頭を取って発足させることになったのが、企業家や商人が集まって意見をまとめる組織でした。これは東京商法会議所といい、大蔵卿の大隈重信の働きかけを受けた渋沢栄一らが設立しました。  

 関税自主権を確立する一歩として、輸入の実態も調査しています。日本初の経済団体は、公正な貿易の実現という明確な目的をもって生まれたわけです。経団連などにとって、そうした経済団体の原点は重みがあるでしょう。  

 米トランプ政権が今、通商問題で対日圧力を強め始めています。米国への輸出は制限する一方、日本に市場開放を迫るというやり方は譲歩を引き出すトランプ流交渉術なのでしょう。しかし、それがフェアといえるかどうか、公正な貿易に向けて民間の行動力も問われています。  

 経団連は、米国各州との関係を強化中です。州知事らに、雇用創出など日本企業の貢献を訴えています。  

 かつてソニー会長の盛田昭夫氏は、学校や消費者団体など地域社会との交流にとりわけ力を入れていました。米国民を味方にするなら、草の根レベルの対話が欠かせません。明治のときに比べて、この世論形成は難関です。

  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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