保護政策が改革の邪魔をする
江戸の昔も、値下げ要求は珍しくありませんでした。飛脚の仕事を請け負う江戸日本橋の商人は、取引先の酒問屋や紙問屋に「値下げは勘弁してほしい」との書面を再三にわたって出しています。たとえば大名家から代金の1割減額を求められ、5分引きに止めようと交渉しましたが、結局、押し切られたといった具合です。
それでも顧客とのパイプが細っては大変なので、得意先への付け届けは欠かせなかったようです。鯛や長芋、饅頭、扇子、羽織、金子など、多様な品物が付け届けされたという記録も残っています。当時も、今と同様に仕事をもらう側の立場の弱さが伺えます。
今の中小企業が発注元から値下げの圧力を受ける背景にも、対等とはいえない力関係があります。取引契約を結ぶに当たっては不当な値引きを強いられたり、いったん決まった代金の減額を求められたりと、「下請けいじめ」は後を絶ちません。これを是正するには中小企業自身が、技術力や品質などで一目置かれるようになる努力も必要でしょう。
政府は設備投資への税優遇拡大など中小企業の支援に力を入れていますが、これが経営者に「国頼み」の風潮を広げ、自力で強みを磨く意欲を削ぐ心配もあります。
江戸時代、飛脚業者の間では得意先の奪い合いが禁止され、この保護策が一見の客を警戒する閉鎖性を生んでいます。今の時代も言えることですが、ぬるま湯のなかでは経営革新が起こりにくいということでしょう。
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