日本人は〝バブルの伝統〟を引き継いでいる

 江戸時代には、金のなる木があったといいます。ユリ科の多年草で、青々とした葉が美しい万年青(おもと)のことです。その鉢植えがブームを巻き起こし、金生樹と呼ばれていました。大名、旗本が競って取引に加わり、18世紀末の寛政年間には今の価値1億円もの鉢が現れたといいます。  

 万年青の流行は明治期にもたびたび発生していますから、17世紀オランダのチューリップの球根バブルよりもしぶとい感じです。生命力のみなぎる常緑の葉に、人々は言葉に尽くせぬ期待をかけたのかもしれません。  

 今の時代、万年青バブルの伝統を持つ日本人を引きつけているのはビットコインなどの仮想通貨でしょう。登場したころはキワモノ扱いされていた仮想通貨ですが、その利便性ゆえに徐々にお金としての存在感を獲得してきました。うまく育てば、通貨の歴史が変わるかもしれません。  

 ただ、仮想通貨をめぐる動きで目立つのは一獲千金を狙ったマネーゲームです。万年青は多くの新種が生みだされ、それがまた投機熱に拍車をかけたといいます。現代の金のなる木も、分裂で次々に新通貨を誕生させて投資家を歓喜させています。  

 ただ、心配になるのは陶酔と熱狂の夢から覚めた後のことです。ネット空間にたくさんの鉢植えを抱え、途方に暮れる人も出てくるでしょう。  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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