遠くへ行きたい

 さて、旅――。

 永六輔作詞、中村八大作曲で1962年に世に出た曲「遠くへ行きたい」は、長く続くテレビ番組のテーマソングに使われました。 

「知らない街を歩いてみたい どこか遠くへ行きたい」  

 仕事に疲れると、つい口ずさみたくなる歌です。世代を超えてなお愛され、今でも命脈を保っています。旅に出ること、未知の土地を巡ることは気ぜわしい日常を転換し、心をリフレッシュする特効薬です。  

 この曲が長く歌い継がれてきたのも、旅への憧憬をたしかな言葉でつづっているからでしょう。   松尾芭蕉は、旅についてこう述べています。 

「予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず」  

 芭蕉の願望は、現代人の胸の奥にも脈打っています。  

 永六輔の「遠くへ行きたい」の歌詞は、こう続きます。 

「知らない海をながめていたい」 

 昨今の旅の情報といえばグルメも温泉も、もっぱら「○○してみたい」です。しかし、「ながめてみたい」ではなく、時間の経過を忘れて見知らぬ海と向き合っているイメージなのです。  

 旅は、やはり「したい」ではなく「いたい」が一番でしょう。 

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

0コメント

  • 1000 / 1000