君は今日からミスターGT―Rだ

 人生で最大のリスクは生き様を後悔すること。

 私は、リスペクトして止まない人が何人かいます。その一人が日産GT―R(35型)の元開発責任者、水野和敏氏。水野氏とは、本の企画編集で一緒に仕事をしたことがあります。

 水野氏は現役時代、ポルシェやベンツにも負けないニッポンのスーパーカーを創ろうとしていました。GT―Rの開発では、カルロス・ゴーンCEO(当時)にこう言われています。 

「君は今日からミスターGT―Rだ。すべてを君に任せるのでやってほしい」   

 水野氏は、ゴーンCEOの熱情にモチベーションが火を点けられたといいます。   

 11年3月11日の金曜日、東日本大震災が発生。

 その夜、水野氏は日ごろ世話になっていた医師から3日後の月曜日に病院を訪れるように言われています。そして3日後、医師にこう告げられたのです。 

「あなたは末期の胃ガンで、おそらく2年後の生存率は20%以下です」  

 ガンを告知された水野氏は、何の恐怖も動揺もなかったといいます。

 自信をもってそう言えたのは、自分の生き様に後悔するところがなかったから。精一杯に生きてきた自分を褒めて死にたかったし、何のために生きてきたのかと後悔するような死に方だけはしたくなかったと振り返っています。

 ガンを患っても、こう覚悟していたそうです。 

「なるようにしかならない」  

 生きることに真剣だったのです。そしてガン宣告を受けた3日後、前から予定されていたオーストラリアのサーキットを訪ねる仕事で旅立っています。  

「人はいつか死ぬし、生きることに欲を持たないほうがいい。いつ死んでも、悔いだけは残したくない」  

 いつも、そう思って生きてきたといいます。まさに、精一杯に生きてきた人にしか言えない言葉です。著書『非常識な本質』(フォレスト出版)で、こう述べています。 

「僕にとって日産GT―R(R35型)は、単なるライフワークではなく、人生を賭けた仕事だった。チームのみんなの夢を乗せて、お客様の感動に支えられて、そして日本人のモノづくりの力の証明のために僕は働いてきた。後悔なんてない」  

 水野氏は過去を振り返らない、常識にこだわらない人。スピリチュアルな感覚から見ても勇気や情熱、覚悟、胆力、独創力、決断力、突破力など心を鍛え上げた人の揺るぎない生き様はやはりリスペクトできます。  

 世界的に有名なミッキー・マウスの生みの親であるウォルト・ディズニーは、こう言っています。 「現状維持では後退するばかりである」  

 安定志向の企業や人にとって、何かと耳の痛い言葉でしょう。ただ、世界的に破壊的イノベーションが進んでいる今、雇用不安や生活不安など心配の種を持ち出したら切りがありません。  

 だれでも、人生で残されているのは現在か未来。そして残された人生を生きていくとき求められるは勇気や情熱、覚悟、胆力、独創力、決断力、突破力など心と魂にかかわるものばかりです。 

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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