できる人は常識では見えてこないニーズを掘り起こす  

 子ども服「ナルミヤ」の創業者、成宮雄三さんは、女の子の目線に立ってマーケティングに取り組んでいたとき、ある特徴に気づいたといいます。

「女の子の日ごろの言動は、リーダーみたいな存在に大きく左右されているといった特徴があることに気がついた。幼稚園児は小学生に、小学生は中学生に、中学生は高校生に憧れるなどワンランク上の世界を羨望していた。

 とにかく何らかのリーダーに対する憧れが強く、とくにアイドルが好きだということもわかった。そうした憧れの対象となっていたアイドルは当時、スタイリストが外国で手に入れてきたファッションを身に着けていた」

 成宮さんは、それをメイド・イン・ジャパンで提供できないかと着眼しました。購買層を小学校の低学年、高学年、中学の低学年、高学年などと細かく分け、それぞれワンランク上の商品を用意することにしたのです。

 前例を踏襲していては、新しいニーズは決して見えてきません。

 成宮さんは、女の子のニーズが市場に眠っていると予測。それを掘り起こそうとしたチャレンジは見事に当たり、会社の業績は右肩上がりで伸びていったのです。

 なにも富裕層だけがオシャレなわけではなく、むしろ金銭的に余裕のない中間層やミーハーのほうがオシャレに貪欲。そうした層の多くはワンランク上の世界に憧れを抱いていて、日ごろヒラメのように上目づかいで暮らしています。

 とくに若くて感性が豊かなミーハーは、サプライヤーにとって侮れない存在です。

 ファッションデザイナーのなかには、流行に飛びつく顧客をミーハーと呼んでバカにする人もいますが、ユニクロやZARA、H&M、フォーエバー21といった大量生産、大量販売の商品を購入しているのは大半がミーハーです。

 ミーハーのなかには、コンプレックスや嫉妬心をバネにしてワンランク上の世界に這い上がろうとしている人も少なくないのです。

 ふつうシャネルやブルガリ、ルイ・ヴィトンなどのデザインは、たいてい有名デザイナーが手がけています。

 ある日、成宮さんはテレビでオリンピックの重量挙げの試合を見ていて、こうひらめいたといいます。

「200キロ近いバーベルを持ち上げていた選手の演技が終わると、スタッフ数人が重たいはずのバーベルを小分けにして後片づけをしている光景を目にした。そのとき、これだと直感した。たとえ天才的なデザイナーがいなくても、デザインを小分けにすることでその仕事に近いことができるのではないかと感じた。むしろ、アパレル企業としてはその方法が適しているのではないかと思った」

 事業イノベーションの発想のきっかけになるネタは、いろいろなところに転がっているということ。劣等感や嫉妬心に支配されない心の体幹を鍛えた「できる人」は、そうしたネタをいろいろ拾い上げることができまする。なぜなら、常識にとらわれていないから。

 成宮さんは、こうも語っています。

「ファッションは、他社の後追いでいいと思っていた。ファッションに、完璧なオリジナルなんて少ない。その数少ないオリジナルの部分をどう組み合わせていくかが、業界での生き残りをかけた勝負となっていたところもあった。

 しかも、そうしたオリジナルはパリコレクションやミラノコレクションなどからではなく、人が日常生活を送っているストリートから生まれてくるものに変わってきていた。つまり、デザイン性よりもストーリー性のあるコンセプトのほうが重要だと感じていた」

  そうしたことをビジネスに繋げていくのも、やはり「できる人」ならではの成せる業。アパレル業界では、たとえ一人の天才的デザイナーがいたとしてもそれで新商品を次々と生み出していけるわけでもないのです。 

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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