絶え間ないプラス思考が「うつ病」を誘発する
自己啓発をめぐる本やDVD、セミナーなどでは、主に「物事をプラスに考えることが大切」といったことが唱えられています。
そうしたポジティブ思考を提唱する自己啓発に関連したマーケットは、所得格差や資産格差といった格差社会の広がりもあって衰えを知りません。
今年(16年)1月、米国科学誌『サイコロジカル・サイエンス』(オンライン版、16年1月29日)に興味深い研究結果が掲載されました。それはアメリカのニューヨーク大学やバージニア大学、ドイツのハンブルク大学などの科学者が共同で行った4つの実験の研究結果。
実験の一つでは、参加した大学生に自分についての空想をさせます。それで心に浮かんだ考えやイメージを書き留めて、それぞれの空想がどれだけポジティブだったのかを評価してもらうのです。
さらに実験が終わった後、うつ病の症状を測るためのテストが被験者に対して実施。それでポジティブな空想が多かった学生は、うつ病の症状の点数が押しなべて低いものでした。
ところが、1カ月後に再びテストをしてみると意外な結果が出ました。空想でポジティブ思考だった学生のほうが、ネガティブ思考だった学生よりもその点数が高くなっていたのです。
意外な結果で、それは何を示唆しているのでしょうか?
ポジティブな空想は、たとえ一時的だったとしても気分を良くしてくれます。ただ、ポジティブ思考を長く続けていると「うつ病」の症状を悪化させる危険因子になっていく恐れがあるということ暗示しているのです。
ほかの3つの実験でも、似たような結果が出たといいます。
研究に参加したニューヨーク大学心理学部のガブリエル・エッティンゲン教授は、こう指摘しています。
「目的を達成するには、ふさわしい方法でプラス思考や空想をする必要があります」
ふさわしい方法とは、たんにポジティブ思考や自分についての空想を繰り返すということではありません。それは夢や目標に挑戦していくプロセスで、立ちはだかってくる困難や障害についても同時に予測していくことが欠かせないということ。
そして、そうした困難や障害を乗り越えていく方法についても考えていくことが求められるのです。
エッティンゲン教授は、そのプロセスを「メンタル・コントラスティング(頭の中の対比)」と呼んでいます。
たとえば海外旅行の秘境を訪れることが夢だという人の場合――。
秘境の素晴らしさを想像すると同時に、そこで起こり得るトラブルや障害を想定して対処法を考えていくプロセスがメンタル・コントラスティングです。
あなたは日ごろ、夢や目標を思い描きながらメンタル・コントラスティングをやっていますか?
それをやっている人は、予想されるトラブルや困難を克服していくことができるようになるでしょう。
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