アメリカでは労働者の味方のフリをする大統領が誕生した
エリートや金持ちは、労働者の味方のフリをするのが得意です。
たとえばイギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズ――。
ケインズは、著書『雇用、利子および貨幣の一般理論』で戦後の資本主義を恐慌から救う処方箋を書いています。具体的には、戦後復興のために税金をふんだんに投入した公共事業がその最たるものです。
官僚で、貴族で、超エリートで、何不自由なく育っています。名門パブリックスクールのイートン校を経て、ケンブリッジ大学に入学。大学では、数学を専攻しています。
大学卒業後、公務員試験に受かってインド省に就職。そこを2年で退官し、学者を志してケンブリッジ大学の研究員として大学に戻りました。
その後、大蔵省に移って役人生活を送りましたが、そこも退官して再びケンブリッジ大学に戻っています。
信用買いや空売りなどを駆使した株取引で儲けたこともありますが、破産寸前も経験。男色家で、人妻にも手を出していたといいます。庶民の目から見ると奇人、変人、天才で、最後は労働者の味方のフリまでしてみせた人間臭い人物でした。
なぜ労働者の味方のフリをしたのかと言いますと、そうしないと当時のイギリス社会が維持できなかったから。ソ連のような社会主義国になるか、ナチス・ドイツのような全体主義国になるしかない状況で、それを回避するために処方箋を書いたのです。
まさに、ノブレス・オブリージュの精神を発揮した大人の対応です。
アメリカのルーズベルト大統領は、ケインズの考えを採用してニューディール政策(公共投資を中心とした)を推進しています。「排日移民法」(実際には西ヨーロッパ国籍以外の移民一般を締め出すための法)で、日系アメリカ人を締め出す政策も採っています。
ルーズベルトも裕福な家庭に生まれ、ハーバード大学に進学しています。
ノブレス・オブリージュとは、もともと貴族などがその高い地位と引換えに戦争になったときには積極的に命を賭し、領民を守る義務を負うといった考え方。
日本でも、江戸時代の武士には武士道という高い倫理観があり、世の中の治安を守るといった強い使命感がありました。
経団連の2代目会長だった石坂泰三氏は、国民の生命と財産を守るべき自民党が派閥抗争に明け暮れ、国政をないがしろにしていたことに怒り、鳩山一郎首相の自宅に乗り込み退陣勧告を突きつけています。
4代目会長だった土光敏夫氏も、「料亭では本当の話ができない」という高いモラルを持ち、仕事が終わるとサッと帰宅し、夜の宴会には一切顔を出なかったといいます。その自宅の造りも質素で、メザシが好物だったというのは有名な話です。
5代目会長だった稲山嘉寛氏も、雇用問題で「いかに雇用を維持するか」という姿勢で労使交渉に臨んでいたそうです。
その点、今の日本企業は経費削減のためにひたすら人件費を削り、不安定な非正規社員を増やす一方です。
皮肉を込めて言えば、日本でもケインズみたいにエリートでありながら平気で労働者の味方のフリができる人物の登場が待望されているのです。
アメリカでは、時代状況が反映されたトランプ次期大統領が誕生しています。
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