トランプ現象「労働者の味方のフリをする改革者」

 エリートは、労働者の味方のフリをするのが得意です。たとえばイギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズ――。

 ケインズは、著書『雇用、利子および貨幣の一般理論』で戦後の資本主義を恐慌から救う処方箋を書いています。具体的には、戦後復興のために税金をふんだんに投入した公共事業がその最たるものです。

 官僚で、貴族でもあったケインズは超エリートで、何の不自由もなく育っています。名門パブリックスクールのイートン校を経て、ケンブリッジ大学に入学。大学では、数学を専攻。大学卒業後、公務員試験に受かってインド省に就職しています。

 そこを2年で退官し、ケンブリッジ大学の研究員として学者を志しています。その後、大蔵省に移って役人生活を送りましたが、そこも退官して再びケンブリッジ大学に戻っています。

  信用買いや空売りなどを駆使した株取引で儲けたこともありますが、破産寸前も経験。男色家で、人妻にも手を出していたといいます。庶民の目から見ると奇人、変人、天才で、最後は労働者の味方のフリまでしてみせた人間臭い人物でした。

  なぜ労働者の味方のフリをしたのかと言いますと、そうしないと当時のイギリス社会が維持できなかったから。ソ連のような社会主義国になるか、ナチス・ドイツのような全体主義国になるしかない状況で、それを回避するために処方箋を書いたのです。

 アメリカ大統領選に出馬したトランプ候補も、白人労働者の味方のフリをして勝利を手にしています。

 トランプ支持の中心勢力となったのが、製造業の衰退で不況にあえぐ「ラストベルト(さび付いた一帯)」と呼ばれる地方に住んでいる白人労働者階級でした。

 トランプ候補は、そうした「サイレントマジョリティー」の不満や鬱屈を過激な言葉で代弁し、その心のスイッチを押したのです。

  哲学者ソクラテスは、こう述べています。

 「大工と話すときには、大工の言葉を使え」 

 専門家の分析によると、トランプ候補は小学4年生(10歳児)レベルの語彙で聴衆に語りかけていたといいます。

 

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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