「もどり芸」の神髄


 とびきりの悪党や憎らしい敵役が、意外にも命懸けで誰かを救おうとする善人であったというケースはよくあります。

 人形浄瑠璃や歌舞伎で、本当の姿が明らかになることやその演技を「もどり芸」といいます。

「鮓屋」の無法者「いがみの権太」は、実は改心していて平家の武将を救っています。「摂州合邦辻」の玉手御前は、恋する男に毒を飲ませた悪人と思わせながら命を捨てて男を助けています。

 切なさが込み上げる名場面の源泉が、まさに「もどり芸」の神髄でしょう。

 昭和のプロレス界で大暴れした悪役タイガー・ジェット・シンさんは、東日本大震災で被災した児童への支援などにより、運営する財団がカナダで日本総領事から表彰を受けたといいます。

 ジェット・シンさんが、サーベルを手にリングの外も荒らしていたのを覚えています。のどをつかむ得意技。はたぶん反則ですが、連発していました。

 当然ながら、悪役と悪人は違います。それをわかってはいても、子どもごころに怖かったという印象です。

 ジェット・シンさんを調べてみると、プロレスで成功した後、長く慈善活動を続けているようです。

 ファンには有名らしいのですが、かなりの規模と熱心さです。実は、こちらが本当のジェット・シンさんの姿だったのでしょう。

 日本への強い思いも、語っています。

「『もどり芸』の芝居では、善の心が覗くのを「底を割る」と言うそうです。それを見せないのが、『もごり芸』の極意だったようです。

 まったく底を割らない暴れ方でしたから、ファンにじわりと込み上げるものがあるのも当然でしょう。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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