政治の退廃は、何気ない日常の裏に潜んでいる


 旧東ドイツの国家保安省(シュタージ)は、社会主義体制を守るため国中に監視網を張り巡らせていました。

 人々の言動を見張ったのは約9万人の役人に限らず、国民の6人に1人が親友や同僚、家族を盗聴・密告していたといいます。

 今年5月公開予定の映画「グンダーマン 優しき裏切り者の歌」は、「東独のボブ・ディラン」と称賛された反体制派の人気シンガー・ソングライターも秘密警察の協力者だったという内容です。

 グンダーマンは、冷戦終結後に露見した恥ずべき過去と自ら向き合う姿を描いています。 炭鉱での辛い勤務中の浮かんだ歌詞を携帯録音機につぶやく毎日だったといいます。   

 草木を讃え、仲間との暮らしを慈しみ、自由への憧れを歌うことが体制へのささやかな抵抗であり、生きるよりどころだったのです。

 歌いたいというその心を国家はからめ捕った

 トランプ前米大統領支持者らが米議会に乱入し、フェイスブックやツイッターがトランプ氏の情報発信を止めた時、メルケル独首相は停止措置を批判しています。

 言論の自由の重み、自由を守る苦しみを知る旧東独出身者ならではの信念だったのでしょう。

 監視社会は、国家の命令だけでは成り立ちません。

 新型コロナウイルス感染症対策で、日本にも「自粛警察」「マスク警察」が大量に出現しています。

 政治体制が何であれ、国家に寄りかかろうとする心は相互監視を生むのです。

 グンダーマンには密告者の自覚がなく、当時はそれくらい自然な生き方だったのでしょう。

 友人に告白すると、自分も友人に監視されていたと知るのが監視社会です。政治の退廃は、何気ない日常の裏に潜んでいるということでしょう。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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