耳の奥に残る声


 映画やテレビなどでの日本語の吹き替えは、1955年に始まったといいます。

 そもそも声のなかには、耳の奥に残るというのがあります。

 たとえば岩手県出身の女優、長岡輝子さんは標準語でなく、故郷の言葉遣いで同郷の宮沢賢治の作品を朗読しています。その声が、耳の奥に残るものとして忘れられません。

 彼女の語り口はおっとりとしていて、ほんわかとして温かみのある声でした。彼女は幕末生まれという祖母の盛岡言葉を思い出し、参考にしていたと振り返っていました。

 耳に残る声というなら、2月8日に亡くなった俳優の森山周一郎さんは外せません。仏映画のギャングや米ドラマの悪と立ち向かう刑事の吹き替えで様々な男を演じ、低くて渋い声がズッシリと響きました。

 吹き替え相手のジャン・ギャバンさんやテリー・サバラスさんの声を演じた作品名を見ると、あの声が今でも耳の奥から聞こえてきます。

 そこには、艶をまぶした色気もありました。

 宮崎駿監督のアニメ「紅の豚」で担当した主人公は、自分で自分に魔法をかけて豚になった空軍パイロットです。

「飛べねぇ豚はただの豚だ」

 キザと紙一重のセリフも、齢を重ねた声だから落ち着いて聞いていられました。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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