もう一度起き上がろうではないか


 作家の石牟礼道子さんの句集に、こういうものが載っています。

「生皮の裂けし 古木に 花蕾」

 句集には、「二〇一一年春」と記されています。

 東日本大震災の起こった春に裂けたのは、海底や大地ばかりではありません。生と死に引き裂かれた家族は、その後の穏やかな時の流れも断ち切られています。

 東日本大震災から間もなく10年が経ちますが、石牟礼さんの句のように春の蕾がようやく見えてきた人もいれば、「まだまだ」という人もいるでしょう。

 福島県会津地方の郷土玩具「起き上がり小法師」の何度倒れても起き上がる姿は、東日本大震災の被災地復興を願う象徴として多くの人に愛されています。

 昨年10月に亡くなった服飾デザイナー高田賢三さんが発起人となった「起き上がりこぼし絵付けプロジェクト」は、知人の協力要請を快諾した高田さんが参加を呼びかけています。俳優のジャン・レノさんらも、復興への願いを込めて絵付けに参加しているといいます。

 常に周囲への感謝の言葉を忘れなかった高田さんの協力は、遠いパリから祖国を思う恩返しだったのでしょう。高田さんは、昨年もビデオメッセージを残すなど亡くなるまで発信に努めていたといいます。

 2014年には日本漫画家協会所属作家による「漫画こぼし」も登場し、世界中で展示会が開かれています。2月は、台湾の台南市美術館で284点が展示されています。

 そんな東日本を2月13日深夜、福島県沖を震源とする震度6強を観測した烈震が襲っています。長い揺れに、東日本大震災の記憶が蘇ったという人も少なくないでしょう。

 今回の地震は、気象庁によると10年前の本震の余震だといいます。復興も道半ばというのに、あの大地震はまだ終わっていないということです。

 コロナ禍の陰鬱な世相に追い打ちをかける揺れでしたが、「もう一度起き上がろうではないか」と叱咤する小法師が見えない手を懸命に差し出しているはずです。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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