教科書のデジタル化


 江戸時代の寺子屋で教科書として用いられた「実語教」という本には、こう書かれています。

「倉の内の財は朽つること有り 身の内の財は朽つること無し」

 身についた知や徳、それらの教育の大切さを説いているのです。

 この本は「山高きが故に貴からず、樹有るを以て貴しとす」で始まり、平安時代末期に書かれたといいます。

 江戸時代に最も普及していますが、昨今の教科書とは年季が違って平安から明治まで子どもを育ててきた教科書の極め付きといえるでしょう。

 また知識学習の大切さを説く「他人の愁いを見ては即ち自ら共に患うべし」の部分は福沢諭吉の「学問のすゝめ」に引用され、近代教育へのバトンとなっています。

 ところが、デジタル時代になり、この実語教を初めとして古代から現代へ続く「教科書」の姿が変わりそうです。

 これまで紙の本だった教科書が、デジタル化される可能性が高まっているのです。

 行政のデジタル化を掲げる菅政権の下、文部科学省は来年度から小中学校のデジタル教科書の本格的試験活用に入る予定です。

 授業での従来の使用制限も撤廃され、学習効果などが検証されるといいます。

 文字の拡大や、音声による読み上げなどができるタブレット端末の教科書には多彩な活用法があるはずです。

 しかし、海外での先行事例では学習効果への疑問も出てきているといいます。この点、紙とデジタルの教科書を併用しながらその利害得失を見極めるべきでしょう。

 デジタル化の長所は認めますが、最良の「身の内の財」を次世代に引き継ぐ教育の原則は忘れないでほしいものです。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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