読書は「緊急事態宣言」の数少ない救いの一つ


 経済学者の向坂逸郞さんは治安維持法で検束された際、獄中に本がないのに苦しみ、手元の弁護士名簿を繰り返し読んでいたといいます。

 蔵書5万冊という向坂さんのような活字中毒者には、拘禁の苦しみは何よりも自由に読める活字を奪われたことで精神的に辛かったはずです。

 一方、コロナ禍で強いられた巣ごもりは、さほど活字好きではない人にも改めて読書の楽しみを思い起こさせたようです。

 昨年の紙と電子出版を合わせた本の販売金額は、出版科学研究所によると前年を4・8%も上回ったといいます。実際に伸びたのは電子出版ですが、大幅減が続いていた紙の出版物も減少幅を1・0%にまで縮めています。

 長引いた休校により学習参考書や児童書が売れ、文芸書やビジネス書なども売り上げを伸ばしたといいます。

 幸い巣ごもりといっても、名簿を熟読する必要はありません。ゆったりと家で開く本が時空を超えた冒険へ、想像もしなかった知見へと人を導いてくれます。

 これは、「緊急事態」の数少ない救いの一つです。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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