たとえ「敵」と呼ばれても


 米大統領の座を去ったトランプさんが、大統領選挙の劣勢を巻き返すために打った手の一つにコロナワクチンの開発を急がせる「ワープ・スピード作戦」があります。

 ワープ・スピードとは1966年に放映が始まったSFドラマ「スタートレック」に登場する言葉で、宇宙船が超光速で進んでいく架空の航法のことを指しています。

 トランプさんは有権者のウケを狙って、ワクチン開発を「猛烈な勢いでやれ」とハッパを掛けたのです。

 SFドラマ「スタートレック」は、日本でも「宇宙大作戦」のタイトルで人気を博しています。

 宇宙戦艦エンタープライズ号が未知の星々を探査するストーリーですが、活躍するのは白人ばかりではありません。

 宇宙人も含めた様々な人種の乗組員が平等に働く、かつてない設定のドラマでした。

 なかでも黒人女優ニシェル・ニコルズさんの起用は当時、米国社会に大きな影響を与えたといいます。現在88歳の彼女は、アフリカのバンツー族出身の通信士官ウフーラ(日本版ではウラ)という役どころでした。

 当時、キング牧師が人種差別の撤廃を求めて公民権運動の先頭に立っていたころで、黒人女性が連続ドラマの主要人物として出演するケースはなかったといいます。

 ウフーラは、才知あふれる活躍で仲間の危機を救います。当時のテレビではタブーだった異人種間のキスを演じた回もあり、賛否両論の議論が起きています。

 キング牧師は「ウフーラは黒人の子どもの目標だ」と称え、途中で番組を降りようとしたニコルズさんを慰留したといいます。

 女優ウーピー・ゴールドバーグさんは、幼いころニコルズさんに憧れて女優を志したと明かしています。黒人女性初の宇宙飛行士メイ・ジェミソンさんも、また同様だったといいます。

 エンタープライズ号の艦橋には、日系2世のジョージ・タケイさんが演じるパイロットのヒカル・スールー(日本版では加藤)もいました。

 太平洋戦争が始まったとき、タケイさんの一家5人は「敵性外国人」として家を追い出され、日系人の強制収容所へ送られたといいます。

「怖かった。あの日のことは決して忘れない」

 タケイさんの目には当時、左腕に赤ん坊の妹を抱いた母親が、右手に卓上ミシンを入れたカバンを提げて涙を流して立ち尽くしている姿が強く焼きついたといいます。

 今83歳のタケイさんは昨年、作品社から収容所の苦難の日々を振り返った絵物語「<敵>と呼ばれても」を刊行しています。

 タケイさんは同性婚を公表したことでも知られ、絵物語の巻末にパートナーと並んで収容所跡の慰霊碑に手を合わせる姿が載っています。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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