おい、マスクはどうした


 マスクの品切れが続いていたころの某日、商店街を歩いていると突然、がなり声が聞こえてきました。

「おい、マスクはどうした」

 振り向くと、初老の男性が道端で幼い女の子を咎めています。

 女の子の口元に、マスクはありません。

 のどかな昼下がりに、不穏な空気が流れました。

 正体不明の新型コロナウイルスは、社会の不安と不信を増幅させています。感染への恐怖心がとげとげしい言葉となって飛び交い、休業しない店や外出する人を過剰に非難する動きもあります。

 見えないウイルスが、まさに人の心まで蝕んでいるようです。

 凄む

男性に周りが身構えていると、女の子はこう言ってニッコリ笑いました。

「忘れちゃった」

 緊迫は途端に緩み、初老の男性も拍子が抜けた様子でした。

 子どもの笑顔には、コロナ禍で荒んだ心を包み込む不思議な力があります。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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