おい、マスクはどうした
マスクの品切れが続いていたころの某日、商店街を歩いていると突然、がなり声が聞こえてきました。
「おい、マスクはどうした」
振り向くと、初老の男性が道端で幼い女の子を咎めています。
女の子の口元に、マスクはありません。
のどかな昼下がりに、不穏な空気が流れました。
正体不明の新型コロナウイルスは、社会の不安と不信を増幅させています。感染への恐怖心がとげとげしい言葉となって飛び交い、休業しない店や外出する人を過剰に非難する動きもあります。
見えないウイルスが、まさに人の心まで蝕んでいるようです。
凄む
男性に周りが身構えていると、女の子はこう言ってニッコリ笑いました。
「忘れちゃった」
緊迫は途端に緩み、初老の男性も拍子が抜けた様子でした。
子どもの笑顔には、コロナ禍で荒んだ心を包み込む不思議な力があります。
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