大都市圏で自然との共存を実現している町
福岡県粕屋郡久山町は、150万都市の福岡市に隣接しています。ただ、同町にマンションは1棟のみで人口は9000人ほどです。
久山町で目立つのは、山や川の豊かな自然が広がる田園風景です。ベッドタウンとして開発や人口増が目立つ粕屋郡のなかでも、異色の存在です。
福岡市中心部まで車で30分という利便性と田舎暮らしの共存という大都市圏の〝奇跡〟とも呼べる町を生んだのは、先人たちの英断です。
高度成長期の1970年、久山町の町議会は全会一致で開発しないことを前提とする市街化調整区域の網を町域の97%にかぶせています。
田中角栄元首相が唱えた「日本列島改造論」が打ち出される直前、地方の開発と都市化が鳴り物入りで進められていた時期に正反対の「自然との共存」を打ち出したのです。
当時の小早川新町長は、「久山町長の実験」でこう振り返っています。
「よそはどんどん開発が進んだ。だから、開発で変化した後の状態の悪さが手にとるようにわかってきたわけでね。あんまり人口を増やしちゃいけん、とにかく環境整備から第一に始めていこうということで町議会とも一致したわけです」
急激な人口流入を拒否し、環境を重視した久山町のまちづくりは、今もブレることなく続いています。
今、自然環境や古き良き日本のコミュニティーが再びクローズアップされています。久山町が守ってきたものは、普遍的な価値観だったのでしょう。
久山町には小学校が2つ、中学校が1つしかありません。ただ、町を歩けば顔を知った人ばかりだといい、大都市圏ではあり得ないことでしょう。
久山町にはしたたかなところもあり、単に鎖国的な政策を続けてきただけではありません。
1999年には市街化調整区域に指定したままで、約25万平方メートルの農地を転用して大型ショッピングセンター「トリアス久山」を誘致しています。
核テナントの会員制量販店「コストコ」は、平日でも県外ナンバーの車も目立つほど賑わっています。
地方の人口減少に焦点が当たるなか、久山町はそこにこだわらずに我が道を行っています。
久山町民が享受する「自然との共存」という暮らし良さよさを見ると、行政の仕事の意味を改めて考えさせられます。
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