「人生100年の時代」は幻想


 日本文化史を研究するイタリア人パオロ・マッツァリーノさんは著書「昔はよかった病」のなかで、日本の高齢者の特徴は「昔はよかった」と言って今を嘆き、過去を懐かしんでばかりいると看破しています。

 しかし、「老後破産」に追い込まれた高齢者が生きている「今」は、誰がどう見ても「昔はよかった」と言うほかないものです。

 ふつう収入を得る要素は、労働、資産、家族の援助、社会保障の4つです。そして国民年金は、社会保障以外の3つの要素がある前提で成り立っている制度です。

 たとえば成人するまでは親に扶養され、学校を出たら働いて貯金をします。結婚して子供が生まれたら、家族を養いながらマイホームを買い、資産をつくります。

 そして定年退職を迎えたら、貯蓄と退職金、子供たちの援助に支えられて生活します。

 実際、昭和にはそうした社会モデルが一般的でした。現在の社会保障制度も、こうしたモデルを前提に設計されています。

 そして国民年金も、それ1本で老後の生活を成り立たせるための制度ではないのです。

 ところが今、そうした社会保障制度のモデルが大きく崩れています。

 高度成長期には正社員が当然で、終身雇用が前提で企業福祉も充実し、妻が専業主婦でも家族を養う余裕がありました。

 しかし、現在は非正規雇用者が労働者全体の37%を占め、彼らは給料が低いので資産を形成できず、そんな状態では結婚して家族を養うこともできません。

 要するに、収入の4要素のうち3つがない人が増え、昭和モデルが通用しなくなっているのです。

 老後破産に陥る人は、一般企業の正社員だった人も例外ではありません。それなりに恵まれた家庭環境で育ち、大学も出た人も少なくないというのが実態なのです。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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