小さな夢を見るだけでは小さなことで一生が終わる
先日、90歳でなくなった物理学者で俳人の有馬朗人さんは、こんな句を詠んでいます。
「二兎を追ふほかなし 酷寒の水を飲み」
この句は、天から才能を授かった人の重い覚悟が読み込まれているようです。
有馬さんの恩師であり、科学者でもあった俳人の山口青邨さんは、驚きを込めて有馬青年の東大学生時代を述懐しています。
「朗人くんは出句しておいて、隣室で卓上計算機をガラガラ廻していた」
有馬さんは若いころから全力で二兎を追い、いずれの世界でも一流になった人です。
浜松一中時代に父親が他界し、その後、働きながら学ぶ苦労の日々が始っています。著書で、当時をこう振り返っています。
「努力して自転車を漕いでいるうちは倒れない。私の人生は、自転車操業である」
精いっぱいの努力で、やすやすとは倒れなかったのです。
物理学の世界では、有馬さんの「有馬・ヤッケロー理論」はノーベル賞級だといいます。俳句でも一昨年、最も権威のある蛇笏賞を受賞しています。
若いころ、ノーベル賞を受賞した物理学者の朝永振一郎にかけられたという言葉を大切にしていたといいます。
「若いうちにいい夢を見ておきなさい。小さな夢を見るだけだと、小さなことで一生終わる。できるだけ大きな夢を見なさい」
有馬さんは政治家になり、文部大臣を務めています。若い人にいい夢を見せたいという思いは、いくつ目かの兎を追っていたのかもしれません。
若者への科学の普及や俳句の国際化も、自らの仕事にしています。全力でペダルを漕いで、遥か遠くまで走り続けた人でした。
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