神の手の技と閃き


 1986年のサッカーワールドカップ準々決勝で、アルゼンチンのディエゴ・マラドーナ選手が決めた「五人抜きゴール」を数字で表すと、距離が52メートル、歩数が44歩、経過したのは時間が10・6秒となるようです。

 ほんの僅かな時間のパフォーマンスですが、そこ〝神の子〟と呼ばれた所以と技、閃きが詰まっています。

 あの日のプレーには、世界の若者が追い掛けたくなるような大きな夢が詰まっていたと言えるでしょう。

 大戦相手のイングランドは、アルゼンチンにとってフォークランド紛争の敵でもあったのです。

 実況中継での解説者の「すみません。泣きそうです」の声は、今でも母国で語り継がれているといいます。

 イングランドの名選手リネカーさんは敗北後、「初めて敵のゴールを讃えたくなった」と振り返っています。

 あのプレーの周りには、味わいのある話が散りばめられています。

 数多く伝説と夢を感じさせる在りし日の姿を残して、マラドーナさんが天国へと旅立っています。享年、60歳でした。

 薬物問題やマフィアとの繋がり、ドーピングなど後年の不祥事が山のようにあっても、母国をはじめ温かい言葉ばかり出てくるのは、ときに常識に反した一面もファンの愛情の対象となっていたからでしょう。

 かつてアルゼンチンで、こんな歌がヒットしたといいます。

「ディエゴがあした天国でプレーするのなら、それを見に行くだろう」

 ファンのなかには、天国での神の子の技と閃きの場面を思い描いた人もいることでしょう。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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