生き辛い日本社会


 歌人の萩原慎一郎さんの歌集「滑走路」が、ロングセラーを続けています。

 3年前の刊行以来、単行本は8刷3万部を超えています。今年9月には文庫化され、それも早々と重版が決定しています。歌集としては、〝異例中の異例〟の出来事だといいます。

 この歌集が広く世の中に受け入れられているのは、イジメと非正規雇用という現代の若者が向き合う典型的な2つの〝生き辛さ〟が作品の背景になっているからでしょう。

「ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる」

 この歌は、この20年ほどで急増した非正規雇用がもたらす生活の困難、将来への不安が詠み込まれています。

 しかし、告発調ではありません。自分も苦しいなか、同様に弱い立場にある人に寄り添う眼差しがあります。 

 萩原さんは1984年、東京に生まれています。中高一貫の名門校に入学しましたが、そこでイジメに遭ったのが原因で精神的な不調に苦しむようになります。

 通院や自宅療養をしながら、時間をかけて大学を卒業しています。その後、アルバイトや契約社員として働いています。

「生きているというより生き抜いている こころに雨の記憶を抱いて」

 17歳で短歌に出会い、短歌が生きる希望となって凄まじい数の歌を詠んで雑誌に投稿し続けます。

 そして様々な賞を受賞し、注目の若手歌人となります。2017年、初の歌集を出すことが決まっています。

「きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい」

 短歌という翼を得て、人生の大空に飛び立つという未来が目の前に見えてきます。

 しかし、現実は唖然とするほど重く、甘いものではありません。

 同年5月、出版社に歌集の後書きを渡した萩原さんは、その翌月に突然、みずから命を絶ったのです。享年、32歳でした。

 同年末刊行された「滑走路」は、荻原さんの遺作となっています。

「路上音楽家の叫び虚しく誰ひとり立ち止まることなく過ぎるのみ」

 荻原さんの歌に今、多くの人が立ち止まっています。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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