核戦争は過去の遺物ではない


 避難経路のマップは、様々です。

 たとえば米ソ冷戦中の1959年、米政府が作製した米国ワシントンの核戦争時の住民の避難経路マップがあります。

 それは大統領が執務するホワイトハウスを中心に放射状に走る幹線道路が赤く塗られ、矢印が記されています。

 住民は「5分間の警報」を合図に避難し、緊急時は地下室に逃げ込みます。防災訓練でも、核攻撃への備えの訓練は当時、必須だったのです。

 近年、そんな訓練もなくなり、核戦争が〝過去の遺物〟になったかのように錯覚している人が増えています。

 しかし、ペリー元米国防長官の近著を読むと背筋が寒くなります。

 それによると、ロシアは1995年、米国の潜水艦から弾道ミサイルが発射されたと誤認して核戦力を含む警戒態勢を取ったといいます。

 さらに2000~10年代には、ブッシュ、オバマ両米大統領が探知した弾道ミサイルをめぐり核攻撃に対処する戦略軍司令官と交信していたと明かしています。

 このように相手の核攻撃にビクビクするのは、核兵器を先に使われることへの恐怖心があるからでしょう。

 そうであるのなら米国などすべての核保有国が核の先制使用を禁止すればいいと思いますが、現実はそうなりません。核攻撃の緊張は、過去の情景ではないのです。

 小型の「使える核」や核施設へのサイバー攻撃は、核戦争を誘発しかねない新たな脅威です。

 米国大統領選で当選を確実にしたバイデン候補は、「核の先制不使用」を支持しています。その実行を期待したいのですが、そう簡単に核という攻撃手段のオプションを手放すとも思えません。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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