ロストジェネレーションの心を癒す


「ロストジェネレーション」は、「失われた世代」「喪失の世代」と訳されます。もともと第1次世界大戦の悲惨な状況を経験し、それまで信じていた価値や希望を失ったと感じる世代を指しています。

 コロナ禍の今、この言葉は米メディアでよく使われています。コロナ禍で、仕事や将来の希望が失われているからでしょう。

 作家、柳美里さんの作品「JR上野駅公園口」が全米図書賞の翻訳文学部門に選ばれています。

 柳さんは、この作品を「居場所のない人のために書いている」と言っています。それが、米国の新たな「失われた世代」「喪失の世代」にも響いたのでしょう。

 この作品の主人公は福島県南相馬市に生まれ、今はホームレスとして東京・上野公園に暮らす男性です。

 主人公は、長い出稼ぎと震災によって家族との時間を初めとして多くものを失ってきたと思っています。

 その視点から、時代が描かれています。 

 天皇家が上野にある美術館などを訪問する際、上野公園の住民が一時退去させられるのを隠語で「山狩り」といいます。

 柳さんは、それを3度取材したといいます。

 ところで関東大震災の夜、仏分学者だった西条八十は上野公園で1人の少年がハーモニカをふいているのを聞いたといいます。

 つたない演奏が家を失い落胆した人々の心を癒やしているのを見て、大衆のために詩を作る決意をしています。

 柳さんの「JR上野駅公園口」も、作者の体験が刻まれた作品です。柳さんは上野公園と南相馬で海を越えて響く大きなものを得て、それが米国の人にも響いたのでしょう。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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