名もなき民衆が独裁者を誕生させる


 多くの国民は、菅首相が日本学術会議の推薦候補6人を任命拒否したことについての説明に納得していません。しかし、不思議なことに世論調査では菅首相の任命拒否を問題視する意見は少数派だといいます。

〝トランプ流〟に言えば、日本の既存メディアによる世論調査は〝フェイク〟だということでしょう。

 ところで、旧ソ連では独裁者スターリンが1930年、大学教授や技師たちを〝資本主義の手先〟として見せしめにした「産業党事件裁判」が行われています。

 スターリンは、自由と議会制を信奉するエリートたちが「国家転覆を企てた」というストーリーを仕立て上げたのです。

 映画を見ると、群衆が詰めかけた公開裁判では被告らはみんな素直に罪を認めます。

 傍聴者は被告に〝死刑が宣告される〟と歯を剥き出しにして笑い、歓声を上げて手を叩き合います。

 その実録フィルムを編集したドキュメンタリー映画「粛清裁判」では、真っ先に知識人が狙われたことが記録されています。

 しかし、事件はそもそもでっち上げだったのです。

 そうした流れになったのは、民衆が独裁者のウソを支持したからです。

 これに味をしめたスターリンは大粛清に乗り出し、嘘を信じた民衆も膨大な数が処刑される羽目になっています。

 一方、スターリンは1953年、権威の絶頂で亡くなっています。

 同じく旧注連野ドキュメンタリー映画「国葬」には、広大な旧ソ連の各地で数千万人の民衆が〝偉大な指導者〟の死を嘆く姿も記録されています。

 3年後に大虐殺者として告発された〝英雄〟スターリンを悼む民衆の表情は、粛清裁判のときとは裁判と反対に沈んでいます。

 これら2つの映画は、スターリン時代の始まりと終わりを「熱狂」と「厳粛さ」で表象しています。旧ソ連の独裁体制を支えたのが、実は〝熱狂した民衆〟だった事実を映し出しています。

〝粛清の主役〟はスターリンではなく、名もなき無数の民衆だったのです。

 トランプ大統領を初めとした〝ポピュリズム政治〟の体現者が今、世界的に増えていることが心配です。

 なぜなら、それを実現させるのは名もなき〝熱狂した民衆〟だからです。

 一方、バイデン大統領を誕生させたのも雑多な考えを寄せ集めた名もなき〝熱狂した民衆〟です。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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