日本人は季節を告げる小さな自然を身の回りから失ってしまった
気象庁は、1953年から始まった季節の移り変わりを示す動植物の変化を調べる「生物季節観測」を来年から大幅に縮小するといいます。
ウグイスの初鳴きやツバメの初見など23種24現象の動物観測はすべて廃止され、植物観測も桜の開花など6種9現象に減らされます。
「七十二候」とは、古代中国(唐代)に考案された季節を表す方式のひとつです。24節気をさらに約5日ずつの3つに分けた期間のことです。
「七十二候」に含まれる話は、気象の動きや動植物の変化を知らせる短文になっています。なかには、「雉入大水為蜃」(キジが海に入って大ハマグリになる)というような実際にはあり得ない事柄も含まれています。
その「72候」の昔から季節の移ろいを教えてくれた鳥や虫たちからの便りは、バッサリと切り捨てられてしまうことになります。
気象庁は、都市化で気象台周辺での観測ができなくなっていると釈明しています。
唐代中国版の「七十二候」には、奇想もたくさんあります。その点、近世にできた日本版「七十ニ候」は腐った草がホタルになるというもの以外は実際の自然の変化を記しています。
雀や鷹の変身や獺の祭りが今に伝わるのは、俳人らが季題として用いていたからです。
たとえば春には「獺(かわうそ)が魚を祭る」時期もあり、という言葉が残っています。「獺祭(だっさい)」は、銘酒の名前としても有名です。
思えば、日本人は僅かな間に季節を告げる小さな自然を身の回りから失ってしまったようです。
気象庁がそれを見る目、聞く耳を持たないというのなら、市民のネットワークで新たな「七十二候」を書き残していくしかないでしょう。
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