あえて立ち止まり、熟慮の姿勢を立て直す


 テクノロジーの進化には、光があれば影もあります。

 ハイパーネットワークの電脳世界に浸った人と社会の深部では、得体の知れない変化が進んでいると不安を抱く人は少なくないでしょう。

 フランスの思想家で都市計画家、ステンドグラス作家のフランスのポール・ヴィリリオ氏は1990年代、情報化社会の否定的側面に早くから警鐘を鳴らしています。

 今、バーチャルネットワークの世界が広がり、多様なローカル文化が均質化していっています。

 瞬時に双方向で大量の情報が飛び交う「速度の世界」で、人は反射的行動に走るようになり、反省や熟慮の姿勢を失いつつあります。

 今思えば、ヴィリリオ氏の〝予言〟はかなり的確です。

 ネットに広がる共感の声も、多分に刹那的、感覚的反応のように見えてなりません。

 ある大学教授は、こう嘆いています。

「今の学生を見ていると、レスポンス(反応)は早いが、じっくり考えることが苦手な人が増えているようです」

 これが、社会全般の傾向かもしれません。

 ヴィリリオ氏は、自著でフランス人作家の作品から学校の先生が子どもに語り掛ける台詞を引用しています。

「中庭の中を走ってはいけません。走ったりしなければ、中庭はもっとゆったり大きく見えるはずですよ」

 速度の時代にあえて立ち止まり、じっくり熟慮の姿勢を立て直したいものです。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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