犯罪者を網で捕らえる政治の良し悪し「性善説と性悪説」


 中国戦国時代の儒学者で、思想家の孟子は、人の本性は善だという性善説について思想家の告子(こくし)と論争しています。

 告子は「人の本性は渦巻く水のようで善でも悪でもない」と説きましたが、孟子は「人の性が善なのは水が高所から低所へ流れるようなものだ」と唱えたのです。

 手で水を打つと、水は跳ね上がります。流れを堰き止めると、水面は上がっていきます。しかし、それは水の本性ではありません。

 孟子は、「不善がなされるのは外から加えられる〝勢い〟に動かされるからだ」と説いたのです。

 こえが納得できる理屈かどうかは、それぞれの判断でしょう。

 ただ、今の時代でも性善説が公の期待を集めることがあります。

 コロナ禍で困窮した事業者を助ける持続化給付金が、確定申告書などを添えて簡単にオンライン申請できたのもその一例でしょう。

 不正申請防止よりも、一刻も早い救済が急がれたのです。

 性善説論者には残念な事実でしょうが、各地で給付金の不正受給が相次いで発覚し、詐欺容疑での摘発が続いています。

 悪質なのは若者たちを集めて虚偽申請を指南し、詐取した給付金を吸い上げる連中です。軽い気持ちで、そうした誘いに乗った若者も少なくありません。

 悪事は外の力の「勢い」のせいという性善説の救いは、摘発報道を見て自首や返金を希望する不正受給者が殺到していることでしょう。

 政府は不正受給者が自主返納すれば本来課せられる「加算金」を免除すると表明し、返還を促しています。

 専門家のなかには「給付を急ぐのはいいが、電話での本人確認などのチェックはすべきだった」と指摘する人もいます。

 この点、孟子は「民を罔(あみ)する(網で捕らえる)」ような政治を批判しています。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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