1950年代、野球場で飛んだヤジ「ワニのエサ」


 1950年代の米国、ある若い投手が登板すると決まって、こんなヤジが飛んだといいます。

「ワニのエサ」

 その言葉の意味は、南部の独特の表現で黒人を意味しています。

 かつて人種差別が蔓延っていた南部ではワニ狩りの際、黒人の男性をロープに縛って沼に放り込んだという言い伝えに基づく表現だといいます。

 一方、ヤジられた黒人の若者は差別と闘いながら伝説の名投手となります。

 その人は、セントルイス・カージナルスで活躍したボブ・ギブソンさんです。先日、84歳で亡くなっています。

 速球と絶品のスライダーで積み上げた勝ち星は、251です。日本の大リーグファンのなかには、倒れ込むようなダイナミックなフォームを覚えている人もいるでしょう。

 黒人初の大リーガー、ジャッキー・ロビンソンさんが忍耐で差別と闘ったのに対し、ギブソンさんのやり方は、速球の力で相手を黙らせることだったそうです。

 もちろん、勝利によって黒人の野球技術と精神力を証明するためです。打者をのけぞらせる内角高めの速球を武器としたのも、闘争心のなせる業だったのです

 ジャーナリストのデビッド・ハルバースタムさんは、こう書いています。

「ギブソンは、差別への膨大な怒りを支配して前向きの力に変えた」

 先月、カージナルスの同僚で黒人の俊足好打の名選手ルー・ブロックさんも亡くなっています。

 ロビンソンさんとブロックさんは、1964年のワールドシリーズで、ヤンキースを倒しています。

 当時のヤンキースは、黒人選手の入団に否定的な球団でした。2人としては、決して負けるわけにはいかなかったのでしょう。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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