時代とともに変わる「ザ・ナイン」の姿勢


 米国には、「ザ・ナイン」と敬意を込めて呼ばれる人たちがいます。それは、9人で構成される連邦最高裁の判事たちです。

 判事それぞれが保守やリベラルの思想を持ちながらも、指名する大統領ではなく法にのみ従うと誓っている憲法の番人です。

 中立性を守る姿勢の一端は、三権のメンバーが連邦議事堂に集う大統領の一般教書演説のときに見られます。

 全員が起立して大統領に拍手を送る場面でも、連邦最高裁の判事たちは黙して座したままです。その振る舞いからも、党派を超えた存在という自負が見て取れます。

 しかし、トランプ大統領は死去したリベラル派のギンズバーグ判事の後任に保守派のバレット控訴裁判事を指名しています。

 大統領選の結果次第で法廷闘争になることを想定し、共和党に有利な体制にするのが狙いだと見られています。

 民主党は、連邦最高裁判事の威厳を吹き飛ばす事態に「承認手続きを選挙後に先送りすべきだ」と主張しています。

 ただ、同じく大統領選挙の年だった4年前に欠員が出た際、オバマ前大統領が指名した判事の承認を共和党が拒否しています。

 民主党は、当時の共和党と同じことをやっているのです。

 ともかく、連邦最高裁判事は終身制だけに党派色むきだしの政争です。

 とは言っても、連邦最高裁判事は大統領の意のままにはなりません。実際、人工妊娠中絶の合憲判決では保守派判事も支持しています。

 2000年の大統領選でフロリダ州の再集計を退けて共和党のブッシュ候補を勝利に導いた判決では、保守派判事が異論を挟んでいます。

 時代の流れとともに、保守からリベラルへと転じる判事は珍しくありません。逆も、またしかりです。

 連邦最高裁は、党利党略を実現する道具ではありません。それを一番わかっているのも、連邦最高裁でしょう。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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