イグ・ノーベル賞の意義


 常識や通説と異なる現象を見ても、なかなか信じたがらない人がいます。その傾向は、 「ゼンメルワイス反射」と呼ばれています。  

 これは、19世紀のハンガリーの医師ゼンメルワイスの名前に由来しています。当時、ゼンメルワイス医師は、手洗いが衛生予防になると説いています。  

 しかし、その主張は否定され、物笑いのタネにされています。  

 ガリレオの地動説も、ダーウィンの進化論も当初は受け入れられていません。こういうことは、科学の世界ばかりではないのです。  

 ところで、孔子は怪しげなこと、力をたのむこと、世を乱すようなこと、鬼神に関することを語らなかったといいます。  

 論語の「怪力乱神を語らず」という言葉は、後世に伝えられています。立派な人物は、理性で説明できないことを口にすべきではないという戒めです。  

 鎌倉時代末期から南北朝時代にかけての官僚で遁世者、歌人、随筆家でもあった吉田兼好は、随筆「徒然草」で嘘や根拠のない話ばかりの世の中を嘆いています。 

「とにもかくにも、虚言多き世なり」 

「よき人は怪しき事を語らず」  

 どれほど時を経ようと、人の性質も虚言の多い世の中も簡単に変わらないもののようです。  

 先日発表されたイグ・ノーベル賞で、「医学教育賞」の受賞者にトランプ米大統領など9か国の首脳が選ばれています。  

 コロナ禍のなか、怪しきことを語ってきた顔ぶれが並んでいます。  

 たとえば米国のトランプ大統領は、抗マラリア薬の効果を「ウイルスは奇跡のように消滅する」と謳っています。ブラジルのボウソナロ大統領は、「新型コロナウイルスはちょっとした風邪」と言い張っています。ベラルーシのルカシェンコ大統領は、「コロナにはウオッカが効く」と暴言を吐いています。  思えば、国の大小を問わず首脳の言動が世の中を混乱させています。  

 イグ・ノーベル賞の授賞理由は、「政治家が学者や医師よりも生死に影響をおよぼすことを知らしめた」ということだといいます。  

 9人の首脳の受賞は大きなニュースにはならなかったようですが、笑って考えさせる賞の皮肉は効いています。今の時代を後世に伝えるのには、まさに有意義な賞というものでしょう。  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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