カナリアの気絶に気づく


 日本を代表する喜劇人の志村けんさん(70歳)が3月29日夜、新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなりました。年末に公開予定だった山田洋次監督の映画「キネマの神様」で、主役を演じるはずでした。 

「庶民の哀歓に寄り添ってきた街角の名画座の灯を守りたい」  

 そんな思いを寄せる市井の人々の連帯を描く物語で、志村さんの練達の演技を見られなくなったのが残念です。  

 コロナ過のため各国で映画館が休館し、演劇やコンサートなどの開催中止や延期が相次いでいます。欧米の政府は、文化芸術に従事する個人や組織に対する公的支援を決めています。  

 ドイツの文化担当大臣は、こう言っています。 

「文化は良い時にのみ与えられる贅沢ではない」  

 米国の作家カート・ヴォネガットは、かつて講演会で「坑内カナリア芸術論」を唱えています。その内容は、表現者は高感度だから炭鉱の坑道で有毒ガスを探知するカナリアのように社会の危険な変化を察知して発信することができるというものでした。   

 そして、こう続けています。 

「この講演会で今日、私にできる最善のことは坑内のカナリアのように気絶することかもしれません。しかし、芸術家は毎日、何千人も気絶しているのに誰も注意を払ってくれません」  

 第2次世界大戦の欧州戦線に従軍し、ドイツ軍の捕虜になった作家らしい苦みにあるユーモアです。  世界は今、未曽有の危機に立ち竦んでいます。こうしたときこそ、みんなでカナリアたちの歌声を守りたいものです。  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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