偽りの安息


 1970年代、レバノンのベカー高原を拠点としていた「日本赤軍」はなかなかPR上手だった。世界のメディアをうまく引きつけ、幹部が臨機応変に取材インタビューに応じていた。  

 日本赤軍を美化するプロパガンダ映画「赤軍―PFLP世界戦争宣言」まで生まれ、この映画はしばしば自主上映されている。「テルアビブ空港乱射事件」を起こした元日本赤軍メンバーの岡本公三容疑者は、レバノンへの亡命が認められてから20年が経っている。  

 一方、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長は日本の司直の手から逃れてレバノンへ逃亡した。こちらも情報戦に長け、世界を相手に言葉を巧みに繰り出してきた。  

 世界各地に一定の味方を得ているようで、いずれハリウッド映画やネットの動画配信で日本赤軍など足元にもおよばないような大作が送り出されるかもしれない。  

 ただ、映画や動画のストーリーを着飾って見せても〝感動〟には程遠いだろう。ゴーン元会長が日本の司法制度をどんなに批判しても、自身の功績をどれだけ言い立てても犯した根本的な過ちが消え去ることはない。

 縁もゆかりもない岡本容疑者とゴーン元会長の2人だが、それぞれ英雄視する向きもあってレバノンで〝偽りの安息〟を得ている。  

 その〝偽りの安息〟も今、コロナ禍に脅かされている。 

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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