戦時を連想させる緊急事態宣言

 1939年(昭和14年)9月、当時の新聞にこんな見出しが躍っています。 「帝都から"紅灯緑酒"を抹殺 けふ初の興亜奉公日」  東京の繁華街からネオンが消え、警察による酒場の取り締まりが始まったことを伝える記事です。「紅灯」とは夜に輝く街の灯、「緑酒」とは美酒のことです。  

 日本史用語集によると、聞き慣れない「興亜奉公日」とは自粛のことです。中国戦線に赴く兵隊さんの労苦を偲び、当局が盛り場のバーなどの営業を制限したのです。折しもナチス・ドイツがポーランドに侵攻し、英仏がドイツに宣戦布告し、第2次世界大戦が勃発した時局のことでした。  

 政府は当時、国策の周知徹底のため国民からスローガンを募っています。「帝国ニッポン標語集」(現代書館)によると、次のようなものが入選しています。 

「戦場より危うい酒場」 

「飲んでて何が非常時だ」 

「酒呑みは瑞穂の国の寄生虫」  

 そこまで言うか、といった感じです。  

 当時、結核などの感染症も社会問題となっていました。むろん、それに関する標語もありました。 「拝む心で手を洗へ」 

「洗ひ清めよ手と心」  

 これは、今の新型コロナウイルス対策にも有効でしょう。  

 戦争の長期化で物が不足し、不安を煽る噂も広がっていました。 

「行列は恥 買いだめは敵」 

「デマに乗りデマを飛ばせば君も敵」  

 令和の緊急事態宣言を聞いて、こうした戦時の標語がひどく切実に響いてきます。

  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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