天国への手紙

 島根県松江市の郊外に位置する「黄泉比良坂」は、女優の北川景子さんが主演した映画「瞬(またたき)」のロケ地になったところです。  

 国道から細い道に逸れて山へ向かい、小さな池の傍を過ぎて雑木林に入ると鳥居のようにしめ縄で結ばれた2本の石柱が建っています。ここは、日本最古の歴史書「古事記」によると〝この世とあの世との境界〟とされています。  

 映画では、ヒロインは恋人とバイクで花見に出かけた帰り道、トラックとの事故で自分だけが助かっています。しかし、恋人が亡くなった「最後の瞬間」の記憶を失っていました。  

 人は愛する人を亡くしたとき、悲しみのあまり「なぜ」と問い続けます。 

「何が起きたのか」 

「なぜ自分だけが生き残ったのか」  

 ヒロインも、同様でした。  

 阪神淡路大震災や東日本大震災、各地の災害でも、その思いに胸を締めつけられる人は少なくないといいます。残された人のなかには、亡くなった人に手紙を届けたいと望んでいる人もいます。  

 黄泉比良坂には、地元の住民が作ったポストが置かれています。これは、「黄泉の国(天国)への手紙」を送るためだといいます。  

 たとえ天国に届かないにしても、届くと信じて手紙をしたためると心が癒やされることもあるはずです。 

〝残された者の思い〟を手紙に託す人にとって、〝震災の風化〟という言葉は永遠に無縁でしょう。

  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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