失われた時を求めて

 さて、プルーストの「失われた時を求めて」――。  

 プルーストの小説「失われた時を求めて」に、とても印象的な場面があります。語り手が、紅茶に浸したマドレーヌの風味から少年時代を過ごした田舎町の記憶を蘇生させる挿話です。ふだん気にも留めないような味覚、嗅覚、聴覚から埋もれていた過去が、奇跡のように立ち上がります。  

 これと似たような経験を持つ人も、多いことでしょう。「プルースト効果」とは、この「無意志的な記憶」を指しています。ふと蘇った遠い思い出は幸福感で満たしたり、時に苦しめたりします。  死に別れた人々に再び声を与え、彼らを懐かしむ記憶の風化に抗う被災地の慰霊碑のような作品です。  

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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