格差社会が産む断面「泥の中に引きずり込まれるような生活」

 作家の夏目漱石が、こう評した作品があります。 

「泥の中に引きずり込まれるような名作」  

 これは、作家の長塚節の作品『土』のことです。   

 女主人公「お品」の最後は、ともかく哀れです。  

 お品は日ごろ一生懸命に働き、みんなの面倒を見ています。しかし、破傷風を患い、最期に体を激動させながら死んでいきます。  

 夫は埋葬のため密かに家の後ろの田んぼに行き、土を掘り返します。そしてボロに包まれた肉塊を取り出し、それを棺桶に入れて、亡き妻の胸に抱かせます。  

 それは、貧困のあまり間引いてしまったわが子の死体でした。  

 形は違っていても、経済的格差が広がり続ける日本では今でも似たような光景があります。そこには、土臭い日本的悲哀がそこはかとなく漂っています。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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