ボクシングの神様が教えてくれたこと
元プロボクサーの坂本博之氏は「平成のKOキング」とも呼ばれ、日本ライト級王座や東洋太平洋ライト級王座、ABCライト級1位など輝かしい実績を誇っています。
11年夏、彼が患っていた椎間板ヘルニアの件で取材をしたとき、引退を決めたきっかけをこう語っていました。
「最後となった試合で、相手の繰り出すパンチに鋭く反応する瞬発力が確実に鈍っていました。少し前なら相手のパンチをかいくぐり、カウンターパンチで相手をねじ伏せることができていました。それが、その試合ではできなくなっていたのです。以前と比べると、一歩の踏み込みがゼロコンマ何秒か遅く感じられました。ボクシングでは、その瞬間が大事。それが遅れてしまったらパンチは当たらないし、逆に相手のパンチを食らってしまいます」
そのころ椎間板ヘルニアの影響もあって、激しい練習で自分の体をギリギリまで追い込むことができなくなっていたといいます。
「練習の成果が正直に出るボクシングで、もう熱い試合をできなくなっていました。そこで試合後、引退の意思を固めてジムの会長に『若手を相手に体力負けしていることを痛感しました。自分の持ち味である前へ出るボクシングが、もうできません。タイトル戦に挑戦するだけの体力が残っていません』と告げました」
その試合が「引退試合」となっています。そして、こう振り返っていました。
「最後の試合が終わって、ボクシングの神様が『思う存分やってきたではないか。ゆっくり休みなさい』と言ってくれた気がしました」
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