アンパンマン考

 マンガ『アンパンマン』は、今ではテレビのアニメ番組、キャラクター商品がヒットするなど大成功を収めています。 『アンパンマン』が誕生した背景には、作者やなせたかし氏の従軍体験があります。  

 やなせ氏は戦時中、戦争のプロパガンダ制作に従事。そうした戦争体験のなかで、つくられた「正義」というものがいかに信用しがたいものかを痛感させられたといいます。  

 それまでマンガのヒーローは派手な格好をし、特別な武器や必殺技を駆使しながら「正義」を口にしていました。悪者や怪獣などを徹底的にやっつけていましたが、飢えに苦しむ人々を救うというイメージはなかったのです。  

 さらに戦いによって破壊し、汚染した建物や自然に対して後始末や謝罪をするということもありませんでした。  

 やなせ氏は戦中、戦後の厳しい食糧事情を経験していた当時、こう考えていたといいます。 

「人生で一番辛いことはたべられないこと」  

 50代で『アンパンマン』がヒットする以前は、ほとんど売れない作家の身。いつも空腹を抱えながら、こう思っていたそうです。 

「食べ物が向こうからやってきたらいいのに」  

 やなせ氏の作品『アンパンマン』が登場したのは、1970年代。その評判は当初、あまり芳しくなかったといいます。やなせ氏は当時、出版社の担当者からこう言われています。 

「パンが空を飛ぶなんて、こんなくだらない絵本はもう描かないでください」  

 さらに幼稚園の先生にも、批判的な言辞を投げかけられています。 

「顔を食べさせるなんて残酷です」 

 ただ、やなせ氏は『アンパンマン』と正義についてこう考えていたのです。 

「アンパンマンは、食べ物を困っている人々に届けるヒーロー。正義の味方なら、まず飢えている人々を助けるべき」  

 そうした着眼点があった『アンパンマン』は、多くの子どもに支持されて大ヒットします。  

 どんな業界でも、ヒット商品を生むには前例を踏襲しない非常識な本質をつかみ取ることが大切だということです。 

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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