日本のスピリチュアルはニューエイジ運動の流れをくむ

 キリスト教の信者は身の回りに悪いことが起こると「神のご加護がありますように」と祈り、良いことがあると神に感謝します。

 生活の中に神がいて、洗礼を受け、食前に神に感謝の祈りを捧げます。日ごろ神に守られているという思いがあり、いつも傍らに神がいるという感覚で生きています。

  日本で使われているスピリチュアルには、そこが決定的に欠落。その大半が「霊的な世界を重視する価値観やライフスタイル」という意味合いで使われ、1960年代にアメリカで起こったニューエイジ運動の流れと無縁ではありません。

  ニューエイジ運動はアメリカ西海岸を拠点にして始まり、西洋と東洋の文化の融合を目指しています。物質主義を嫌い、精神性を重んじて神秘的な直感や瞑想、啓示などを通じて神聖な知識の獲得や高度な認識に至ろうとするものです。

 きっかけとなったのが、ベトナム戦争帰還兵の社会復帰の支援。その際、スピリチュアルやヨガ、気功などが取り入れられ、あらゆる角度から精神的なダメージを負った帰還兵の救済が試みられています。

  当時、反戦運動の機運が大いに高まり、若者の間ではキリスト教以外の宗教への関心が広がっています。  

 それまでの伝統や制度に縛られた生活を否定し、愛と平和を訴えながら個人の魂の開放を信条としたヒッピーカルチャーが登場したのも、このころ。ヒッピーカルチャーはニューエイジの終末論と親和性を持ち、多くの若者に受け入れられていきます。

 ニューエイジは近い将来に「裁きの日」が訪れ、古い世界が滅亡して新しい愛と平和、調和、霊性の時代が始まると唱えています。

 そうした動きは瞑想やヨガ、密教、神秘主義、超能力、占い、超常現象、オカルトにまでおよんでいます。そして80年代以降、交霊術や宇宙とのチャネリングなども含めた幅広いものへと広がりを見せています。

  日本のスピリチュアルは、そうした流れを汲んでいるのです。日本には古くから目に見えないものを信仰する風土があり、そのためスピリチュアルという精神世界の概念がすんなり受け入れられたのかもしれません。

  スピリチュアルは精神世界と呼ばれることもあり、人を科学では証明できない霊的な存在としてとらえています。

  魂の存在を認める精神世界の概念は、目に見える世界だけを重視してきた近代文明や科学へのアンチテーゼとして生まれています。 宗教が人の信仰で成り立っているのに対し、精神世界は人の秘められた霊性を重視することで成立しています。

  ただ、日本のスピリチュアルはキリスト教的な意味や考え方からかなりかけ離れ、スピリチュアルビジネスに代表される現世利益を追い求めるものが大半を占めています。

 スピリチュアルに興味がある人の主な関心事は、不安や悩みを抱えた心身の改善、現世利益などにかかわるものです。

  霊的成長や心身の鍛錬などを謳うスピリチュアルビジネスでは神秘的なものがウリにされ、悩める顧客に対して常識では考えられないことで何らかの解決策が得られるのではないかという期待感を抱かせます。 

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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