新天地で見上げる月は格別に美しい


 

 中国の官吏登用試験「科挙」に合格したとされる唯一の日本人は、奈良時代に留学生として唐に渡った阿倍仲麻呂です。

 仲麻呂は外国の超難関試験を突破し、皇帝に認められて高官にも上り詰めています。まさに1300年前のスーパー国際人で、李白や王維など一流の文化人とも親交があったといいます。

 百人一首にも、安倍の歌は選ばれています。

「天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」

 栄達を果たしても、断ち難いのは望郷の念だったのでしょう。

 広い空を仰ぎ見ると、美しい月が出ています。この歌からは、故郷の春日にある三笠山の上に出る月と同じなのだと歌った思いが伝わってきます。

 ようやく帰国の機会を得たのは、唐滞在がすでに約35年になるころです。

 しかし、日本に向かった船は嵐に遭い、ベトナム付近に漂着しています。仲麻呂は都・長安に戻って再び官職に就き、73歳で没したとも伝えられています。

 仲麻呂の時代は命懸けだった海外との往来は、今は容易になっています。しかし、コロナ禍が行く手を阻んでいます。

 予定していた留学を断念した人は、少なくないでしょう。旅行や航空などの業界を目指す就活生は、途方に暮れているはずです。

 ただ、コロナという嵐はいずれ収まります。そのときのために、若者には夢に向かって船を漕ぎ出す勇気と希望を持ち続けてほしいものです。

 新天地で見上げる月は、格別に美しいはずです。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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