日本に忍び寄る「Gの悲劇」は防げたはず


 新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まって以来、iPS細胞研究者の山中伸弥さんの仮説が注目を浴びてきました。 

 日本の感染者は欧米に比べると桁違いに少なく、重症化率も低く推移してきました。

 それは、なぜでしょう。

 山中さんは生活習慣の違いに加えて何らかの医学的要因などが潜んでいると分析し、それらを総合して「ファクターX」と名づけています。

 ところが、ここにきて「もう一つのX」が頭をもたげてきたのです。それは、東アジアのなかでは日本の感染者が突出して多いということです。

 その理由は、何なのでしょう。

 昨年末からの日本の急激な感染拡大も、気掛かりです。累計感染者は日本が30万人を超えたのに対し、中国や韓国がその3分の1以下、台湾が1000人未満に止まっています。

 東南アジアでも、タイやベトナムは日本を大きく下回っています。国情の違いもあるでしょうが、この状況の違いを意外に思う人も少なくないはずです。

 前者の「X」については、いくつかの推論があります。一つは、結核の予防ワクチンBCGとの関係です。

 BCGの接種が推奨されている東アジアや東南アジア諸国は、新型コロナの流行規模が欧米より小さいというのです。

 BCGには従来、免疫力を高める効果があるともいわれ、それが感染の抑止につながった可能性が指摘されています。

 アジアでは、これまで肺炎や風邪の症状を引き起こす別種のコロナ感染症が流行してきました。

 そのため、新型でも遺伝子構造が似通った今回のウイルスに対して免疫機能が働いた人が多いのではないかとの見方もあります。

 いずれも、アジア地域に特有の要因が存在し得るという分析です。

 では、「もう一つのX」の正体は何なのでしょう。

 それは1文字で表すなら「G」ではないかと指摘され、五輪と「Go To」事業を意味する「G」ということです。 

 政府は新型コロナウイルス感染の流行が始まった当初、PCR検査の件数を絞っています。

 それにより、日本の感染者は少なく東京五輪開催は大丈夫だという状況を演出しようとしたという指摘があります。

 実際は感染実態の把握が遅れ、最初の緊急事態宣言に追い込まれています。その後、景気回復を急いで旅行や飲食の喚起事業に走っています。

 その結果、国民の緊張感が再び緩んだ感は否めません。

 政府は今ごろになって「人流」と「飲食」が感染拡大の主要因と強調していますが、何をかいわんやです。

 緊急事態の再宣言に当たり、菅首相から反省の弁は聞かれませんでした。

 五輪も地域経済もともに重要ですが、為政者が功を焦って責任を国民に転嫁するようでは先が危ういだけです。

 下手をすると、有名な推理小説の題名になぞらえるなら「Gの悲劇」になりかねません。

八丁堀のオッサン

八丁堀に住む、ふつうのオッサン。早稲田大学政治経済学部中退。貿易商社勤務のあと雑誌編集者、『月刊文芸春秋』、『週刊ポスト』記者を経て、現在jジャーナリストとして文字媒体を中心に活動。いろいろな面で同調圧力 にとらわれ、なにかと〝かぶく〟ことが少なくなっているニッポンの風潮が心配。

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